世界の魔法について

それと、あとほんの少しのいくつか

【ドラマ】坂元裕二『スイッチ』

もしも 間違いに気がつくことがなかったのなら?

並行する世界の毎日

子どもたちも違う子たちか

ほの甘いカルピスの味が 現状を問いかける

(小沢健二「流動体について」)

 

2時間ドラマであるからだろうか(?) 坂元裕二の作品の中では極めてわかりやすく作ってあるように思う。モノローグからの導入もそうであるし、古畑任三郎よろしく、サスペンスの犯人も被害者も最初に明かされてしまう。メタファーは丁寧に回想シーンが挿入され説明され、遊びなくすぐに”お得意”の食事シーンの会話劇へと突入する。

しかし、それでいてこのドラマはちっとも「親切」なドラマではない、と思う。サスペンス作品として理解することは簡単だ。宮崎駿宮本茂を例にした美学、グロテスクなまでに音で描写された殺人シーン、非常にわかりやすくサスペンス的面白さで肉付けされているが、しかし『カルテット』よろしく、事件そのものにはなんてことはない、全然意味なんてないのだ。つまりそこから先は相変わらず、まったくもって不親切なのだ。

 

というのも、坂元裕二は、丁寧に丁寧に、しつこく、何度も何度も同じところ、これまでの作品で描いたテーマを周回し続けてみせる。テレ朝の2時間サスペンスドラマ、という趣きで観ている視聴者への親切心は、やはり物語的にわかりやすいキューが入っているという程度に留まっていて、「隣のレジに並んでいたら?」という駒月直(阿部サダヲ)の語りを実証してみせるかのように、物語そのものの本懐は、今まで並んでいたレジのすぐ隣ですよ、という顔をして語りだす。そういった意味で極めて不親切であり、ある意味、この作品は極めて坂元裕二の「集大成的」な作品といえるかもしれない。

そうなのだ。坂元裕二はいつも、これまで描いたテーマのすぐそばを、すぐ隣を、塗りなおすみたいに問いかけてみせる。*1「ラブ ジャンクション」*2なんて『東京ラブストーリー』のパロディでふざけてみせるように、または「最高の離婚」と同じく、JUDY AND MARYを引用して見せるように、これはサスペンスでもなんでもなくて、ついに40歳を超えてしまった2人を通した、"忘れられない初恋"のオマージュであり、書き換えだ。

つまり、表層では「わかりやすい」サスペンスとして進んでいくのと裏腹に、要所でラブストーリーの文脈が顔を出して物語はすすみ、混ざり合っていく。しかしこの「ラブストーリー」というのも、つまりは「忘れられない初恋」であるから、単純な「恋愛もの」の言いかえではないのだから厄介だ。坂元裕二の描く「忘れられない初恋」は、常に社会と密接に連動して、混ざり合っていく。

 

大切な人がいて、

その人を助けようと思う時、

その人の手を引けば済むことではない。

その人を取り巻くすべてを変えなければならない

『往復書簡 初恋と不倫 不帰の初恋 海老名SA』

この世界には理不尽な死があるの。

どこかで誰かが理不尽に死ぬことは私たちの心の死でもあるの。

『往復書簡 初恋と不倫 カラシニコフ不倫海峡』

すべては、理不尽な、どうしようもない社会と地続きにある。岡崎京子リバーズ・エッジ』の川の流れが、彼女たちの恋愛のすぐ隣にあったたように。ただ、事件でかかわっただけの被害者の思いに共鳴して、自分のこととして捉えてしまうように。

「彼女がされたことって私たちがされたことじゃない!」

と、『スイッチ』では、蔦谷円(松たか子)に反復させてみせるその哲学は、一方では「大切な人の手を引く」という、暗闇のような世界から引っ張りあげるような光であるようも見える。

 

だが、他方でそれは、激烈なひずみとなって現れる。『Mother』の鈴原奈緒(松雪泰子)が「誘拐」という形で道木怜南(芦田愛菜)を救おうとしたように、『anone』の暗闇から抜け出そうとする連隊が、偽札づくりという形で表現されたように。良い/悪い、黒/白が混ざり合った、"してはいけない"ひずみの形で、今回は「殺人のスイッチ」という形で、表出するのだ。そうなのだ、これは円の行為は「誰かの手を引くこと」ではあり、同時に、本人がこらえても、どうしようもなく入ってしまう、抗うことのできない狂気の「殺人のスイッチ」でもある。

どうしようもない「殺人のスイッチ」。これは『それでも、生きてゆく』の三崎文哉(風間俊介)、あるいは舞台『またここか』の吉村界人、などを通して、これまた「忘れられない初恋」と同じように、あるいはその2つが地続きであるからこそ、何度も何度も繰り返し描かれてきた。また、何度も挑まれ描かれても、それでも、答えがでない、もしかしたら、狂気を抱いた当人すら「理解できないもの」で

また、ここか

『またここか』

 とスタートに戻されたテーマなのである。その狂気を抱えながら、それでも、生きていかなくてはならないこと、今回並んだレジでも、直の、

「またか」

という台詞に集約されたように、抱きながら抱えながら、"また"起こってしまっても進んでいかなくてはならない衝動なのである。

 

これまでは、どこか遠い、理解のできない、ステロタイプ的言い方をしてしまえばサイコパス的ものとして描かれた「狂気のスイッチ」を、こちら側に手繰り寄せるように、大切な何かの手を引く場合なら果たしてどうなのか?という問いかけにして、答えが出ない曖昧なまま、また、私たちに届けられているのだ*3。円と直の

「もういっかい行くから、(刑務所から)出てきたら絶対殺す」

「そのたびに俺は邪魔するから」

というやり取りの、どちらも成り立ってしまう正義と不正義。正しいかどうかという白黒は決してわからない。*4ただ、「隣のレジに並んでいたら?」と自らを思い返すように、坂元裕二もまた、物語を変えて何度も何度も周回させながら、音を立てて飲むカルピスを通して、"また"そのことを問いかけ続けているのである。

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TVerでまだ観れるみたいです。

 

スイッチ 《日曜プライム ドラマスペシャル》

tver.jp

*1:それなので、今後はもしかしたらずっと「集大成」のような作品ばかりかもしれない

*2:これもまたわかりやすく説明してくれている

*3:松たか子の非常にキュートな「スイッチ」が入る演出もまた、ポップであるが故に

*4:だからこそ「あなたと2人で」いることは光にもなる

「平成映画女の子ランキング」を集計しました!

「平成映画女の子ランキング」を集計しました!

 

「平成映画女の子ランキング」を集計しました。たくさんの参加ありがとう!

 

実施概要はこちら。

yama51aqua.hatenablog.com

 

 

 

集計ルール・及びその他注意など

 

  • 今回は女優(女の子)に対する票数を集計しました(記事後半に別でおまけをつけています)。
  • 20位~1位までのランキングとします。
  • ♯平成映画女の子ランキング のハッシュタグでつぶやかれた2019年5月2日までのツイートすべてを対象にして集計しました*1
  • 有効投票者数は95名。有効投票数は898票、投票された女の子の人数は264人でした(惜しくも100名、1000票には届きませんでした)。
  • 1~10位のように順位付けしている人が多くなかったので、1位に挙げていても2位に挙げていても同じように「1票」として扱いました。
  • そのため、1人あたりの票数制限は設けませんでした。*2
  • 反対に、1票(1人)のみ投票した人も同じように集計しています。
  • ちなみに一人あたりの平均投票数は9.5票(人)でした。
  • 一人が別作品を挙げて1人の女優に2回投票していても、それは「1票」として集計しています。*3
  • 個別の投票数は公開しません。

 

 

ランキング(20位~11位)

さぁ、これが『平成映画女の子ランキング』だ!!!!

 

20位 浜辺美波

(投票された作品:『きみの膵臓が食べたい』など3作) 

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『きみの膵臓が食べたい』が多くの支持を集め、期待の若手がランクイン。他には『センセイ君主』などへの投票が見られました。

 

 

 

 

19位 岸井ゆきの

(投票された作品:『愛がなんだ』など3作)

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『愛がなんだ』が圧倒的な支持を集め、20位圏内に入り込みました。『愛がなんだ』は4月19日公開のため、平成最後の一週間でここまで評価されたことになります。この映画の反響の大きさが伺えます。

 

 

 

 

18位 深津絵里

(投票された作品:『(ハル)』『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』など4作)

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平成で最も売れた日本映画こと『踊る2』。批評家界隈からの評判はあまりよくない印象ですが、多くの支持を受けました。実はみんなだいすきなんじゃないか。他には森田芳光の『(ハル)』が人気で『踊る2』以上の得票数を集めました。*4

 

 

 

 

17位 夏帆

(投票された作品:『天然コケッコー』など4作) 

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 あのころの夏帆は本当にかわいかった。もし、ゼロ年代の終わりなんかに投票を行っていたら、もっと上の順位だったのではないかと個人的には思います。

 

 

 

 

16位 黒木華

(投票された作品:『リップヴァンウィンクルの花嫁』など5作)

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静かながら凛とした存在感を見せていた『リップヴァンウィンクルの花嫁』への票が多かったです。あとは票数は多くありませんでしたが、山田洋次『小さいおうち』や樹木希林の遺作『日日是好日』など、古風な作品にも投票されていました。

 

 

 

 

15位 松たか子

(投票された作品:『四月物語』など5作)

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黒木華の『リップヴァンウィンクルの花嫁』もそうですが、岩井俊二の作品は本当に強いですね。『四月物語』の松たか子を観ればみんなロリコンになってしまう(そんなにロリでもない)。 

 

 

 

 

14位 麻生久美子

(投票された作品:『インスタント沼』『ひまわり』『カンゾー先生』など7作)

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多くの票を集めた作品はありませんでしたが、コメディから文芸映画、行定勲初期作品など幅広い作品から少しずつ票を集めてこの順位に。麻生久美子の映画ばっかり見ている時期があったなぁ。

 

 

 

 

13位 小松菜奈

(投票された作品:『恋は雨上がりのように』『渇き。』『来る』など8作)

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デビュー作『渇き。』もインパクトがありましたが、『恋は雨上がりのように』が多くの票を集めました。

 

 

 

 

12位 安藤サクラ

(投票された作品:『百円の恋』『万引き家族』など3作)

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『百円の恋』のまさに体当たりの演技は凄かった。話題作『万引き家族』を上げる人もやっぱりそれなりに多かったです。 

 

 

 

 

11位 広瀬すず

(投票された作品:『海街diary』『ちはやふる』シリーズ など6作)

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やっぱり入ってくるよね!『海街ダイアリー』での四姉妹の末っ子に多く投票されました。『ちはやふる』はどのちはやふるだか書いていない人が多かったです。

 

 

 

 

 

 

 

ランキング(10位~1位)

 

 

10位 池脇千鶴

(投票された作品:『ジョゼと虎と魚たち』『そこのみにて光輝く』など4作)

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池脇千鶴のトップテン入りは個人的にうれしい。ちーちゃんはゼロ年代のヒロインだった。日本映画のランキングっていう感じがしますね。やはり『ジョゼと虎と魚たち』に多くの投票が集まりました。

 

 

 

 

9位 ペ・ドゥナ

(投票された作品:『リンダリンダリンダ』『空気人形』『ほえる犬は噛まない』の3作)

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 ぼくらのペ・ドゥナ。平成という括りなので、日本映画に投票する人が多かったためか、日本映画にも出ているペ・ドゥナが非日本人最上位になりました(といっても主な出演作は2本なのですごい)。

邦画だけでなく、韓国映画の『ほえる犬は噛まない』などにも票が集まったことが彼女の人気の高さを感じさせます。

 

 

 

 

8位 吉高由里子

(投票された作品:『横道世之介』など6作)

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天真爛漫なお嬢様を演じた『横道世之介』への票が多かったです。個人的にはテレビでの活躍がメインの印象もあるのですが、こうやって上位にランクインしてくるのはさすがです。

 

 

 

 

7位 長澤まさみ

(投票された作品:『モテキ』など7作)

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投票のほとんどが、2010年代に入ってからの作品『モテキ』だったのが、長澤まさみという女優のキャリアから考えると面白かったです。逆に社会現象にもなった『世界の中心で愛を叫ぶ』をはじめ『ロボコン』『タッチ』『ラフ』などの初期作品はあまり投票されませんでした。

 

 

 

 

6位 二階堂ふみ

(投票された作品:『ヒミズ『私の男』『ほとりの朔子』など11作)

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ヒミズ』を始め、2010年代の日本映画で独特の存在感を放った彼女がランクイン。もう十分なキャリアがある彼女ですが、朝ドラヒロインも決まりこれからもう更に一段階ステップアップしそうな感じもあります。

 

 

 

 

5位 満島ひかり

(投票された作品:『愛のむきだし』『川の底からこんにちは』の2作)

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いうまでもなく多くの映画に出演していますが、票が入ったのはなんと『愛のむきだし』と『川の底からこんにちは』の2作のみで、この2作品の衝撃の強さがわかります。多分もう石井裕也の作品には出ないだろうから悲しい…。

 

 

 

 

4位 宮崎あおい

(投票された作品:『害虫』『ソラニン』など11作)

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10代のころの『害虫』と20代後半の作品『ソラニン』がそれぞれ人気を集め、長い期間第一線で活躍していることが結果に表れました。ちなみに世に出たともいえる衝撃作『EUREKA』にはあまり票は入りませんでした。おかしいなぁ…。

 

 

 

 

3位 松岡茉優

(投票された作品:『勝手にふるえてろ』『万引き家族』『ちはやふる-下の句-』など4作)

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勝手にふるえてろ』の人気がすげえ!募集した「女優+映画」の形だと"松岡茉優勝手にふるえてろ』"という投票がダントツ1位でした。そのほかに『ちはやふる』や『万引き家族』など近年の話題作のヒロインとしての松岡茉優の存在感の大きさが結果に表れました。

 

 

 

 

2位 橋本愛

(投票された作品:『桐島、部活やめるってよ』『告白』『リトル・フォレスト』など13作)

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『桐島』と『告白』の衝撃は凄まじく、多くの票を集めたほか、ただ美しくご飯を作り食べる作品『リトル・フォレスト』の人気も高かったです。橋本愛のすごかったのは票が入った作品の数が多かったことで13作もの作品に票が入っているのは最多です。決して長くはないキャリアの中で出演した作品の多くが愛されていることが伺えますね。

 

 

 

 

1位 蒼井優

(投票された作品:『リリィ・シュシュのすべて』『花とアリス』「百万円と苦虫女』など10作)

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結婚おめでとう!!!!平成映画ベスト女の子は蒼井優だ!!!

 岩井俊二作品を中心に多くの票を集めましたが、10年代前初期の『百万円と苦虫女』、しずちゃんとの共演作『フラガール』、近年の『彼女がその名を知らない鳥たち』やアニメ『ペンギン・ハイウェイ』など幅広く色んな作品に投票されたのが決め手かと。そういえば蒼井優の作品いっぱい観てるもんなぁ。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 いろいろなおまけです。

 

多く投票された映画

1.勝手にふるえてろ
2.愛のむきだし
3.リンダリンダリンダ
4.花とアリス/横道世之介
6.ジョゼと虎と魚たち/ヒミズ
8.モテキ
9.百円の恋
10.愛がなんだ/寝ても覚めても

 

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一番投票された映画は『勝手にふるえてろ』でした。シリーズを含めるなら10位に『ちはやふる』が入ります。『寝ても覚めても』で多く票が集まった唐田えりかは惜しくもランクインしませんでした。

 

 

 

 

 

 

非日本人ランキング

1.ペ・ドゥナ
2.エマ・ワトソン
3.スカーレット・ヨハンソン
4.クロエ・グレース・モレッソ
5.ズーイー・デシャネル

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平成ということで日本人以外への投票は少なかったですが、日本映画に出演しているペ・ドゥナを除くとエマ・ワトソンへの投票が多かったです。ここでもナタリー・ポートマン入ってなかった・・・。 

 

 

 

 

 

 

異職女優ランキング

1.YUI
2.Cocco
2.中島美嘉
2.浜崎あゆみ
2.戸川純

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ごめんなさい、 ランキングじゃないですね。面白かったからまとめちゃいました。ミュージシャン系で一番票数を集めたのはYUIでした。

 

 

 

 

 

 

 

感想 

皆さま、投票・ご参加ありがとうございました。といっても、企画を知らずにハッシュタグで遊んでくれた人がほとんどだとは思いますが…笑

元々、集計するくらいの票数が集まるかな?という意識で開始したのですが、なんとかランキングが形になるくらいの数の方々が参加してくださって、とてもありがたい気持ちです。といっても、まだまだ数が多くなく、偏りのあるランキングであることは否めず、別の人・別のタイミングで実施すれば、全く異なった順位になるかとは思いますが、これはこういうものとして楽しんでいただければよいなと思います。

「平成」という冠をつけたからか、洋画への投票はあまり多くなく、私の予想のようにマチルダがランク入りする、ということなどはありませんでした(そういうランキングも観てみたい)。あと、私が1位にあげた成海璃子ちゃんへの投票も1票だけ。なんで!!笑)

また、なんの区切りで実施できるかはわかりませんが、集計は楽しかったので、また何かの機会に遊ばせていただけたらと思います。次回はレビューみたいなこともやりたいね!

 

 

 

 

 

 

 

 

追記

蒼井優ちゃん結婚したので急いで更新しちゃいました。1位おめでとう!!記者会見での幸せそうな表情を見て、今まで自分たちが見ていたのは蒼井優の恋する姿ではなくて、アリス(花とアリス)や詩織(リリィ・シュシュ)の恋する姿だったんだなって思っちゃいました。そういう意味でなんとなく企画の趣旨にあってるな(?)と。

改めて、結婚おめでとうございます!!!

 

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天才はあきらめた (朝日文庫)

天才はあきらめた (朝日文庫)

 

 

 

 

 

*1:平成中につぶやかれたもののみの集計でもよかったのですが、令和になってからのツイート数が多くなかったため、まとめて集計しました。

*2:その中で、悪質なものは除くつもりで集計したのですが、集計にあたって特別悪質なものはなかったため、すべて集計しています

*3:例:長澤まさみ世界の中心で愛をさけぶ長澤まさみモテキ」というツイートがあった場合、長澤まさみ1票として計算しています

*4:実写映画として。アニメ映画はジブリ君の名は。があります。

【映画】平成映画ベスト

 

いわゆるマイベスト。記録用に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10.犬童一心ジョゼと虎と魚たち』(03)

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9.湯浅政明マインド・ゲーム』(04)

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8.風間志織せかいのおわり』(04)

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7.庵野秀明ラブ&ポップ』(98)

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6.相米慎二『お引越し』(93)

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5.矢口史靖ひみつの花園』(97)

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4.萩生田宏治『神童』(07)

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3.三木聡『転々』(07)

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2.市川準大阪物語』(99)

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1.小林啓一『ももいろそらを』(12)

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平成映画ベスト女の子ランキングを観ていたら、記録に残しておきたくなった。ほとんどオールタイムベストのようなものなので少し恥ずかしくなる。個人ブログなので(という注釈が必要なのかはわからないけど)、大衆性も総括も考えないで極めて個人的なリストにした。だから、例えば明日になったら別のものをチョイスするかもしれない程度には気分で選んだけれど、それでも自分という人間を見透かされてしまうような気になってしまう。

私は友達がいないので、それが青春映画でも、コメディでも映画を通して人間を観ていたし、映画を通して世界を観ていた。うまくいえないけど、これはそういうリストなんだと思う。世界は世界にしかなくて映画の中にはないけれど、誰かが好きな世界とか誰かが好きじゃない世界はそこにある。そのことがなんとなく好きだった。

他人の好きな映画のリストを見て、誰かの好きなものがわかって、誰かの好きなものじゃないものがわかる。その人の目に世界がどう映っているのかが気になる。わかるって気になってしまうことも、笑っちゃうくらいなにもわかりあえない時もある。

例えばジョゼをとても好きだな、と思う。そういうとき、私は、ジョゼを大好きな人と、ジョゼを大嫌いな人に会いたくなる。いろんなことを話し合ってみて、わかりあったり、つきはなしあったりしてみたくなってしまう。いまだに私は映画を観ながらずっと、友達を探している。

 

 

 

 

About the Pink Sky

About the Pink Sky

 

 

「平成映画女の子ランキング」 やろう!

 『平成映画女の子ランキング』をします!

 

 映画を観ることは女の子を観ることです。そう言い切ってしまってもなにも問題はあるまい。少なくとも私の映画ライフはわりとそのようなものでした。好きな映画よりも好きなヒロインのほうが先に浮かびます。
例えば、よくわかりませんがテンプレートのように昔の人がオードリー・ヘップバーンに憧れたり、角川映画薬師丸ひろ子に焦がれたり、「さびしんぼう」の富田靖子を好きになったり*1
そんな、そういうものと同じように、私も平成の映画を観て、ヒロインに恋して、感情移入して、振り回されて、時には失恋をして、きました。

 

「平成まとめ」でいろいろなまとめが作られて、ベストアルバムをまとめている友達がいて、「じゃあ自分は映画をまとめようかな」とも考えたのですが、何か違う気がする。だって別にシネフィルではないし。その時思いつきました。

そうだ、女の子だ。

 

まっつくんありがとう。私たちは毎年年末に、好きな女の子(男の子)を決める遊びをしていたんだった。これだ!とおもいました。毎年のランキングには、私は参加したりしなかったりだったのですが、今回の企画はその延長のつもり。

hugallmyf0128.hatenablog.com

 

平成終わりにやるべきこと。それは「女の子ランキング」なのです。平成の、ぼくらの心を狂わせてくれた女の子たちを、ちゃんとまとめて、供養してあげなければ…!

いやいや、言い過ぎですが、同じような気持ちの人たちも多いんじゃないでしょうか。というか、多いはず。私はみんなの大好きな映画の女の子を知りたいのです。教えて。教えてください。

「ああそうだったなぁ…」「あれはかわいかった」「あれは恋に落ちるよね!」という思い出話がしたいのです。若しくは「実は秘密にしてたんだけどさ…」みたいなのも大歓迎。みんなで遊びましょう。
皆さんが平成で恋に落ちた・好きだった・振り回されたヒロインを教えてください。

前振りが長くなりました。

 

 

 

 

 


やること

「平成の映画」に出ている「女の子」または「男の子」を10人選んでランキングにする。

 

 

かんたんなルール

  • 「好きな女の子(女優)」と「映画」の組み合わせでランキングを作る。
  • 「女優名」だけ「映画名」だけでランキングを作らないでください。好きなヒロインを選ぼうという試みで、好きな女優ランキングでも好きな映画ランキングでもありません。
  • ランキングは2人以上であればOKです。なので気軽に参加してください。集計する場合は10人までとしますが、選ぶ人は気にしなくていいです。
  • 選ぶ映画は平成の映画、つまり「1989年1月8日から2019年4月30日の期間に公開された映画」にしてください。
  • 1つの女優に複数の映画を上げても結構です(例:「ローマの休日」「ティファニーで朝食をオードリー・ヘップバーン)。ただし、その場合も平成の映画のみを挙げること。
  • 「女の子ランキング」という名前だけど「男の子」を選んでもかまいません
  • ただし「女の子」だけ「男の子」だけでランキングを作ること。両方選びたい場合はランキングを別にして、2つのランキングを作ってください。
  • 洋画も邦画もOKです。「平成」のランキングなんだけど、臨機応変にね。
  • アニメ映画のキャラクターもOK!ただし、その場合はキャラクター名のみではなく、声優名も併記してください(例:「AIR/まごころを、君に綾波レイ/林原めぐみ)。

 

  • ランキングができたら、ブログやTwitterで発表する。
  • ハッシュタグ(#平成映画女の子ランキング #平成映画男の子ランキング)を使ってくれると嬉しい!
  • もしいっぱい集まったら集計します。その場合は集計方法を追記します。
  • そんなに集まらない場合はみんなのまとめ記事を作る予定だよ!(多分)
  • 質問は@yama51aquaまで。じゃんじゃん参加してね!

 

 


わたしのランキング

例として掲載します。私は邦画だけで作ったのだけど、もちろん洋画のヒロインでもOKなので、じゃんじゃん参加してください!

 

 

 

 

 

 

10.『海街diary広瀬すず

ãæµ·è¡ï½ï½ï½ï½ï½ãåºç¬ãããã®ç»åæ¤ç´¢çµæ

 2010年代、僕らのヒロインが広瀬すずであることに異論を持つ人は誰もいないのではないか。彼女のすごいのは「外」の人でありながら「内」の僕たちのこころを持っていくこと。この日記帳は、彼女のヒロインのはじまりを記録するための映画だったんだと思うことがあります。

 

 

 

9.『渚のシンドバッド浜崎あゆみ

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 橋口亮輔の繊細過ぎる最初期の作品に映る女の子を観て、とても驚いてしまった。のちの歌姫の姿があまりにももろく、美しくそこにあったからだ。何も不満はないのだけれど、この映画を観た後ほど「もしも」ということを考えたことはなかった。もしかしたら、彼女のうたの底にはずっとこの時の彼女がいたのかもしれない。

 

 

 

8.『四月物語松たか子

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 岩井俊二ロリコン趣味だということは今更論じるまでもないことなんだけど、『四月物語』の松たか子を観た後だと「そりゃそうだよな~」という気持ちになってしまう。こちらの完全な負けです。

 

 

 

7.『害虫』『EUREKA』宮崎あおい

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 "無邪気”ということばはひょっとしたら誉め言葉でなく、ひどくおそろしいことなのだと知ってしまった。でも何より恐ろしいのは、宮崎あおいがそのころとほとんど変わらないたたずまいで映画のヒロインをやり続けていることなのかもしれません。

 

 

 

6.『リンダリンダリンダペ・ドゥナ

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 ”好きなヒロイン”という話題で『リンダリンダリンダ』のペ・ドゥナを挙げる人は、すべからく皆友達なのです。握手です。異世界に迷い込んだような独特の空気。彼女を前にすると僕らはみんなあの松山ケンイチになってしまいます。

 

 

 

5.『リリィ・シュシュのすべて』『花とアリス』『たまたま』蒼井優

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 彼女がゼロ年代を代表する映画女優であることは間違いありません。『リリィシュシュ』の彼女を救ってあげられなくて、だから『花とアリス』のダンスに涙した。失礼なことをいうとそんなに美人ではないと思うんですが、なのに惹かれてしまう魔法。実は彼女のそういう魅力だけでできている『たまたま』が一番の傑作だと思う。

 

 

 

4.『がんばっていきまっしょい田中麗奈

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 ステレオタイプ的な「青春映画のヒロイン」のイメージに一番近いものを選ぶとしたらこの作品の田中麗奈を選びます。何よりもまぶしい。ただひたすらにまぶしい。それだけだし、それがすべて。

 

 

 

3.『ジョゼと虎と魚たち池脇千鶴

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 どうして僕らはみんなジョゼに恋してしまうんだろう。とても愛おしくって、めんどくさい。妻夫木のきもちがよくわかる。ジョゼだっておんなじ風に泣いてくれればいいのにね。蒼井優と並んで、ゼロ年代邦画のヒロインは池脇千鶴だったと思います。

 

 

 

2.『桐島、部活やめるってよ橋本愛

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映画のヒロインは文化系男子の理想で、偶像なわけだけど、「偶像になったヒロイン」という偶像を演じてくれた橋本愛のことを僕らはいつまでも忘れることができない。ブルーレイを発売日に買って、ヒリヒリとした胸の痛さでまだいちども再生できずにいる。それから一生、ミサンガをつけている奴と落合モトキのことは好きになれそうもありません。

 

 

 

1.『神童』成海璃子

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 非常に個人的な話だけど、『神童』の成海璃子に合わなければこんなふうに映画を観ることもなかったし、こんな企画をすることもなかったんじゃないかなと思う。彼女のその時間しか持ちえない空気がすべて、映画の中に閉じ込められていて、私はずっとそれに恋をしたままなのです。

 

 

 

 

こんだけ邦画選んどいてあれですが、予想1位は『レオン』ナタリー・ポートマンです。当たるかな~。

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*1:これは私もですが

【俳優】ふと、満島ひかりへの愛情について。

www.youtube.com

言わずもがな彼女は日本映画や日本ドラマ界を代表する女優であるわけだし、活動歴も十分に長い。そして彼女は彼女自身の言葉を語る人だから、私が彼女についてなにがしかの文章を書いたところでおそらく何の意味ももたないだろう。彼女の発言や女優として示してきたもの・体現してきたものについては他に熱心なファンも多くいらっしゃるから、そちらを参照されるといいと思う。

にも関わらず私が今更彼女について語るのは、満島ひかりという女優が行ってきた活動に対する(極めて最低限の)敬意の表明としてであり、極めて個人的なメモとしてでもある。

 

 満島は、NHK Eテレで放送されている『SWITCHインタビュー 達人達』の中で人類進化学者の海部陽介氏と対談した時にこのように述べている。

 

満島「私たちは、役者の仕事は魂の深層心理を探る、肉体の深層心理を(探る)、腕が上がっていると実はこういう気持ちになる、そういうのを探っている方でやってるんですよ。同じようなことをしてるんじゃないかって勝手に思ってるんです」

海部「アプローチは違うだけで人間を追求している」

満島「ちょっと全然違う方法だけど、発見できるかもしれません」

  

海部氏は人類学者なので、仕事として”人間を探る” ことをやっている訳だが、満島はアプローチは違えど役者の仕事は人間を探ることだという。

このことは、例えば唐十郎氏なども同じく言う訳だが、多くはテレビの前などでドラマを消費することが多くなった私たちには遠いものになっているかもしれない。ひょっとしたらこの満島の文章だけを見るとピンとこないのではないか。

だが満島ひかりという人の演じる姿をたとえテレビというフィルターを通してでも観たことがある人なら、例として坂元裕二作品における彼女(『カルテット』3話など)を挙げる必要もなく容易にこの意味はわかると思う。

だから、私はこの言葉を聞いた時「そうなんだ」という感想ではなく、彼女がこれまで体現していることを言語化して見せられたような気がして、なんだかストンと腑に落ちたのでした。

 

ところで、大声で叫んだことがあるだろうか。急だけど。考えてみれば、大人になってからそういう機会は多くないかもしれない。1回くらいはあるだろうか。ではどんな風に?怒り?喜び?悲しみ?少なくとも、怒って叫んで、喜んで叫んで、悲しんで叫んで、すべてをやってみたことある人は多くないんじゃないだろうか。例えば

ジーザスキリストを馬鹿にする奴は…主よ!お赦しを! *1

でも 

点検!*2

 でも。叫んだ時の気持ちを分かるだろうか。

私がはじめて演劇をやった時、衝撃を受けたのが、おばさん役をやって見せる同級生の女の子の演技だった。それは上手い/下手とかで言い表せるものではなかった。なんというか、私の知っているその子の中にそのおばさんはいなくて、だから私は驚いてしまった。そしてそれは彼女も、だった。自分の中にあるものをやっていったのではなく、演じていくうちにそのおばさんはどんどん、おばさんらしくなっていった。そして彼女はそれ驚き笑っていた。

演劇は沢山のIFを投げかける。もしおばさんだったら?もし銃で撃たれたら?もし殺人犯の子どもと恋におちたら?もし自分が2000年万前の人間だったら?そうしたらならどんな気持ちになるのだろう、どういう感情が生まれるのだろう。

 

君と僕とは恋に落ちなくちゃ

夜が深く長い時を越え *3

ここでも満島は「恋に落ちた」魂の深層心理を探っているのだろうか。

私の満島ひかりに対する感情は、例えばファンクラブに入って追いかけるようなものとは違うものだし、雑誌の写真ページに載っていても眺めて時を過ごそうとは思わない。ただ、彼女が演劇というものを(ほぼ唯一といっていいほど)スクリーンで、テレビで体現し続けるなら、私はそれをずっと観ていくのが義務なのだと思う。例えば「ローマの休日」の公開を映画館で観て、オードリーヘップバーンと同じ時代に生きたこと自体に歓喜した人がいたように、満島ひかりという女優が演技し続ける今にいることに感謝をしなければならない。他の誰でもなく、満島ひかりという役者をずっと観ていくのだろうな、とふと思った、ラブリーを聴いてしまった年の暮れ。

 

 

 

*1:愛のむきだし

*2:監獄のお姫様

*3:ラブリー

【ドラマ】森下佳子「おんな城主直虎」 33話『嫌われ政次の一生』感想

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大河ドラマ史、いや、ドラマ史に残る傑作だと思う。まずタイトルが素晴らしい。例えば28話『死の帳面』が名前だけでなく「DEATH NOTE」(大場つぐみ小畑健)だったように、このドラマにおけるサブタイトルは物語の細部までを表している。しかも、この話の寿桂尼(浅丘ルリ子)によるデスノートから逃れるためには、一度自らで自らを殺さなければならない、というところまで元ネタ*1 をオマージュしていたのだから笑ってしまう。

その点を踏まえるならば、「嫌われ松子*2 が、苦しくも実は愛に満ちた一生を送ったように、今回の「嫌われ政次」というタイトルは必ずしもその真実を示すものではないだろう。影と光、嘘と本音、黒と白。コインの裏と表のように、視る方向によって解は異なる。同じく高橋一生主演の「カルテット」で坂元裕二が描いたテーマだが、森下佳子は今作で一貫してこの「視る方向によって解は異なる」というテーマを描き続けてきた。

おとわ「正解はございますか」

南渓和尚「皆正解じゃ。答えは一つとは限らんからのう。まだまだあるかも知れんぞう」 *3

 

囲碁のモチーフが絶妙だ。白の碁石は、政次(高橋一生)にとって光であり、太陽だ。白と黒は井伊と小野であり、光と影であるが、その陰は直虎(柴咲コウ)にとっては進むべき道を示す光であったり、寄り添う陽のようであるかもしれない。あるいは、政次を慕うなつ(山口紗弥加)にとっての白石は、太陽であっても見られたくない"お天道様"のようかもしれない。

 

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大河ドラマというのは面白いもので、誰もが放送前に彼の退場を知っている。その死を悼む準備を、心構えを、済ませて画面に臨んでいる。先週の32話に置いても、しつこいほどに”死亡フラグ”が描かれ、強烈な引きで終了するという大演出までされた。にも関わらず、今話の前半は思ったよりは平穏だ。束の間の休息、あるいは"最後の晩餐"か。それも半ばに最後の仕事に向かうところが、この作品の描いた政次像といったところであろうか。もしくは、高橋一生に踊らされる視聴者の心のようか。手の中には収まらない。*4 そして、政次に与えられているのは、選択のための時間なのだ。これは、多くの脚本家が、テレビドラマで提示してきた普遍的なテーマでもある。

「死ぬほど考えるの。それが後悔しないための、たった一つのやり方よ。」*5

 

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政次に迫られる選択は碁という形で示される。これまでの話でも幾度となく繰り返されてきた、不在の相手との対局であるが、もはやいまや、そこに碁盤すら不要である。囲碁のように答えは一つとは限らない。だが同時に、選択したからには必ずその答えが導かれる。悪手を打てば負け、虎松(寺田心)のように泣きをみる。それは、ここでも繰り返し表現される。「かような山猿に騙されるとは思っていなかっただろう?」は近藤(橋本じゅん)。木をとられ、族まで逃され……。井伊から不遇を受けてきた近藤氏。気賀の繁栄と近藤の不遇。*6 光と影、そして因果応報。すべて井伊が選択してきた答えなのだ。「すべては偶然でなく必然」である。必ずそこには選択があり、選択には必ず対価がついて回るのだ。*7

俺一人の首で済ますのが最も血が流れぬ。

(中略)

それこそが小野の本懐だからな。忌み嫌われ、井伊の仇となる。おそらく、私はこのために生まれてきたのだ。*8

ここで「俺一人の首で済ますのが最も血が流れぬ」と高橋一生に言わせることはもはや狙い過ぎの領域のような気もするが、丁寧な積み重ねがそれを緩和している。この話まで描かれてきた政次は完全にハリー・ポッターシリーズにおけるセルビス・スネイプだったが、ここへ来て自ら生命を犠牲にしたアルバス・ダンブルドアまで一人で請け負っしまった、と思った。まさにこのドラマでは、ひとりの人物が光と影をともに内包する。更には政次が「井伊を乗取って、罪人として裁かれる」という「ドラマと史実」という対比構造まで、このシーンは包み込んでしてしまう強度を持っている。

 

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初めて政次から打たれた白石。直虎に次の一手の選択が投げられたことを示すと同時に、龍雲丸(柳楽優弥)の「罪人として裁かれるってことだろ、悔しくないのかよ」という問いへの回答にもなっている。黒石(罪)でなく白石(無罪)であることは石を受け取ったものだけがわかっていれば良い。そこからの龍雲丸の台詞「井伊っていうのはあんたのことなんだよ!」まで。正に見事な脚本である。

あんたを守ることを選んだのは、あの人だ

(ここでも”選択”であるということがひたすら強調される。)

 

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直虎の打った黒石。衝撃的な「罪」を負うシーンだ。直虎の「地獄へ堕ちろ」の一言が示すまでもなく、31話で政次の負った罪の反復。両者の碁石が入れ替わったように、同時に二人の会話までが裏返る。放たれた言葉は全て真実で、全て嘘となる。地獄へ墜ちる政次。未来の失われた井伊。奸臣と忠臣。磔にされ、槍で突かれ、血を吐き倒れる政次の本懐(本当の心)は、刺したものだけが知っている。画面の白黒の対比構造に言及するまでもなく、これまでの大河ドラマにおいても、ほとんど描かれてこなかった、衝撃的な演出(なのではないだろうか)によって、黒と白の真実を見事に描ききってしまった。

余談だが、放送前に、政次の退場は否が応でも三谷幸喜新撰組!」(2003)においての、山南敬助(堺雅人)退場回『友の死』を想起させると話題になっていたが(偶然にもこちらも33話である)、友が友によって葬られるという構造まで同一である。

この最も残酷で、最も愛に満ちたシーンをテレビドラマにおいて表現できることに感動を覚える。「嫌われ松子の一生」が川尻松子という人物を通して人間讃歌を描いたように、小野但馬守政次という人物は、これ以上ない愛をもった演出で葬られた。そのことに最大の賛辞を贈りたい。

 

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(ラストカットに描かれた、光に満ちた部屋。)

 

白黒を

つけむと君を

ひとり待つ 

 

かん天伝う日ぞ

楽しからずや

 

 

 

*1:金子修介の映画版

*2:山田宗樹による小説(2003)。映画版(2006)の監督は中島哲也

*3:2話で、おとわ(直虎幼少期:新井美羽)が南渓和尚(小林薫)に問うやり取り。放送開始直前に「直虎男性説」が出てきた事自体、このドラマに対しては眉唾であったと言っていい

*4:史実の「死」に対し、忠臣、共闘、井伊の再興説とこちらもゆらゆらと逃げ惑う。そして龍雲丸による奪還計画。だがこちらも収まらず政次自ら身代わりになってしまった。

*5:木皿泉Q10

*6:小野氏忠臣説の裏の近藤氏の不遇。ここすらも対になっている。

*7:CLAMPxxxHOLiC

*8:小沢健二でいうところの"この線路を降りる"という選択。

【ドラマ】坂元裕二「カルテット」1章、2章 感想

私は英語が苦手でした。「live」は住む、でも「live」だけじゃ「生きる」とか、「ライブ放送」という意味になってしまって、「live in」としないと「住む」という意味にはなりません。中学生の私にはその辺りがイマイチピンと来ませんでした。

今なら、すんなりわかります。「住む」ことは「生きる」ということだからです。正確に言うと「〜に生きる」なのかな。
最初、どうして坂元裕二は「カルテット」で男女が一緒に住む、というテラスハウス的なことをしたのかよくわかりませんでした。けれど、今はわかります。一緒に住むということは、一緒に生きるということとほとんど同義だからです。
 
 
 
 
「カルテット」現在、第1章、第2章が終わり、最終幕が開けましたが、野球の延長もあり、私はまだ最新の8話を観ていません。せっかくなので、7話まで、つまり第1章、第2章の「住む」ということ、「〜に生きる」の「〜」が「カルテット」になるまでに関して、私なりの感想、思ったことを書いておきたいと思います。*1
 
 
 
 
一緒に住むということ
「唐揚げにレモンかけますか?」この問いがでるのは、仕事の場でもなければ、遊びの場でもありません。食事の場です。食べることは、生きることです。
一緒に生活をするということは、色んなハードルを越えることです。人と人との間には、距離があります。これを縮めるために、人は努力します。様々な方法を使います。
例えば、恋をします。ごっこ遊びのようなことをします。アルプス一万尺をします。あるいは、料理を作ります。タラのムニエルを作ります。部屋に歯ブラシを置きます。
距離を縮めましょう、という約束が結婚なのかもしれません。二人の間のちょうどいい距離が違ったから離婚するのかもしれません。
距離を縮める、ハードルを越える手段の一つが、住むことです。しかも、その距離を半ば強引に飛び越えてしまおうという手段です。
もし、飲み会の場で、から揚げにレモンかけられてしまったら。「ああ……」って声にならない叫びは出ても、上下関係や付き合いもあるし咎められない。もし咎めたら、なんか変な空気になるし、場の雰囲気を壊してしまうかもしれません。仲が良い人なら「やめろよー」「すまんすまん」で済むことでも、先輩になんか言えません。
けれど、一緒に住むと「レモンかけないで」と言わないと、次も、その次もかけられることになります。これから一緒に暮らしていくのに、趣味に合わない「から揚げにレモンをかける」という行為をいつまでも続けられることになります。だから「距離を縮める」という段階を飛び越えて言います「レモンかけないでください」
こうしてその住む場所には、「勝手にレモンをかけない」というルールが出来ます*2
 
 
段階を一気に飛び越えて、でもそのままじゃめちゃくちゃになってしまうから、お互いを守るためのルールを作ります。あるいは、もっと近づくためのルールを作ります。火曜日の「ハグの日」のように、はっきりと言葉にされたルールもあれば、いつの間にか出来ているルールもあります。ゴミを捨てる人は勝手に決まってて、いつも同じ人だったりします。他の人は部屋がゴミで溢れたら困るのに、自分ではゴミを捨てない人。なんで私が、と思いながら、毎回ゴミを捨てる人。
対照的に見える二人は、好きな食べ物も寝る時間も違います。けれど、同じ洗濯機で下着を洗います。同じシャンプーを使います。
同じ洗濯機を使う人は、似てきます。声は、一緒に小さくなります。*3

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一緒に住むことは、ルールを作ること
同じところで生きていく人たちは、新たにみんなとは違うルールを作ることもできます。社会のルールでは朝起きたら学校に行かなきゃいけないけれど、お母さんが「今日は、学校休もっか」と言ったら、学校を休むことができます。父親が死んだら娘は病院に行かなくちゃ行けないけれど、「行かなくていいよ」と言われたら病院に行かないで家に帰れます。
 
ルールを作るということは同時に、我慢する人を作ることです。
旧い靴下から、新しい靴下に変えるタイミングはいつでしょうか。穴が空いたら?ゴムが緩んだら?三ヶ月履いたら?それとも一度履いたら、使い捨て?
「えっ、その靴下、まだ履けるよ、捨てちゃうの?」
「あ、でも、これもう10回履いたやつだし」
「でも、まだ綺麗じゃない」
「でもそのうち穴が開くよ」
「穴なんて、ふさいであげるよ」
これが価値観の違いです。
奥さんは靴下がボロボロになるまで履いて、夫さんは10回で捨てる。それが本来、お互いの価値観を尊重しあうということです。だけど、そんなふうに暮らしている人は多くないし、その価値観を尊重することは何か別の価値観を尊重しないことかもしれない。2人の折り合いがつくところでルールを決めるか、片方が飲み込んでルールにします。こうやって一方は我慢して、もう一方は我慢させていることを気付かずに、あるいはそれとは違った方法でやり過ごして、生活していきます。
 
 
カルテットに住むことを選択した人たち
カルテットに集まった4人は、皆、以前までの生活を辞め、軽井沢という特殊な土地で、カルテットとしてやらなくてはならない「演奏する」ことと同時に「住む」ことを始めました。「楽器はどれくらいできるの?」とか「得意な曲は?」とか(わかりませんけど)、本来ならカルテットとして重要なことを尋ねる前に、別府くんは住む軽井沢について説明をします。
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彼らは、新しく「住む」ということを選択した人、あるいはせざるをしなかった人でした。家森とすずめは住む場所を追われた人でした。すずめは前の職場のルールで、「出ていけ」と書かれ、彼女のルールでそれが100枚程たまると出て行った。家森は前の家族のルールに我慢できなくなって、あるいは我慢してもらえなくなって、紙に名前を書いて"地獄”から抜け出しました。

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別府は、前の住む場所に居場所がなかったことも想像できますし、読み取れますが、そのことよりも、むしろ距離を飛び越えるために「住む」という手段を選択した人として描かれています。住むことは一気にハードルを越えることですから、真紀との距離を縮めたくて、選択をした人です。
 
真紀はどうでしよう。真紀は1話で「私もう、帰るところないんです」と言い、買ってきたカーテンを家にかけました。こうして、とりあえずカルテットのメンバー全員が、「一緒に住む」ことを選択しました。
けれど、「カルテット」はまだ、仮の一緒に住むメンバーです。皆がどこかに、生活の欠片を置いてきたままになっています。
すずめの欠片は納骨堂に置いたままにしてきているし、家森は息子のことが常に気にかかっています。*4
 
カルテットの一章は、その移動しきれていない想いのようなものが、少しづつ住むということを通して、移動するというか、解消されて、一緒に住む共同住人として、カルテットメンバーとして、一つになっていく過程が描かれていました。すずめがいう聞き慣れない「みぞみぞする」という言葉は、感覚として4人の共通言語になっていきました。

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1章の最後で、この生活を一度ぶち壊したのがすずめではなく、真紀でもなく、家森のトラブルや別府の愛情でもなく、
有朱だったのは、その生活の中に居ない人で、同じシャンプーを使っていない人だったからです。有朱は、誰かと何かを共有できない人です。他人と同じルールを作れない人です。壊してしまう人です。だから、あそこで壊すのは有朱でなければならなかったわけです。*5

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1話で車の前で転んだ3人、マンションで転んだ真紀
*6
さて、すずめや家森を縛るものが軽くなっていくなか、真紀には残っていました。真紀さんだけ住むということの一部を東京のマンションに置いたままにされているのでした。
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夫さん(幹生)が戻ってきたことで、脱いだ靴下の枷がなくなりました。

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幹生は真紀と自然に結ばれた「ルール」の中で我慢して、妥協して、耐え忍んで逃げ出してしまった人でした。
夫婦であろうと、価値観の違いは存在するわけで、少なからず妥協点を見つけてやっていくしかないわけで。
反対に、真紀さんはその妥協点を楽しんで、惹かれて生きていました。
ここは、坂元裕二の優しさと、オマージュだったと思います。
 
 
こんなに面白くないもの、面白いって言うなんて、
面白い人だなって
よくわからなくて楽しかったの
(カルテット 7話)

 

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君のオススメに面白いものは
一つもなかった
それでもついていきたいと思った
楽しい日曜日
大森靖子「愛してる.com」
 

 

 

4人で「カルテット」に住む
1話で真紀は夫婦を「別れられる家族」と言いました。
その通り、真紀さんは幹生と家族であることを辞めました。

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(でも、一緒に生きていたからできること。)

 
けれど、夫婦以外の家族も同じなのかもしれない。すずめはお父さんに会いませんでした。家森は息子と住めませんでした。まだ描ききっていない別府の家族ことも気になります。もしかしたら別れられない家族なんて存在しないのかも。
真紀が詩集を暖炉に放り込んで、枷が無くなり、カルテットと住むところを選択したところで、2章は終わります。素晴らしい終わり方だと思います。*7
さて、このあと、最終幕、どんなまさかが待っているのか。これからどう生きていく様子が描かれるのでしょうか。
大分夜も遅くなってしまったので、最新話、また明日の楽しみにしたいと思います。
 

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(脱がれたもう一足の靴下。ここから始まりここに戻ってくる話だったように思う。)*8

 
 
 
 
 
 
 
 
 

*1:本当は5話くらいで書きたかったので、賞味期限切れ感が否めません

*2:だから真紀さんは「夫婦じゃなかったんだ」と言います

*3:一緒に生活したからお互い小さくなったと思って書いてたんですけど、お互い小さいから一緒になったみたいですね。

*4:別府は音楽家の家族としての別府なのだろうけど、いまいちそこを理解できていない。彼だけ演奏前のルーティーンがわからない

*5:住む人のルールを、住まない人のルールで壊された状況があったわけですが、それ自体は有耶無耶にされてしまいました……。ここは大した問題でなく、もう描かないだろう

*6:関係ないかもしれません。

*7:「住む」と言う意味の生きるではなく、ただ単純に「生きていく」という意味では、当て振りを選択したのも真紀だった

*8:靴下を足で脱いだり、ゆるい靴下を履いていたり。これって住むまでわからない価値観の違いで、住んで受け入れることのように思う